前の記事では確率変数という概念を導入しました。今回は確率変数の和の確率分布関数はどうなるかを考えてみましょう。つまり、下の図のように二つの確率変数 が与えられたとき という新しい確率変数の確率分布はどうなるか?ということを説明したいと思います。
その前に、二つの確率変数の独立性というものを定義します。
●確率変数の独立性
二つの確率変数があると、その確率変数たちの関係性を論じることができます。中にはまったく関係のない確率変数たちもあるわけで、そのような確率変数たちは互いに独立であるといいます。厳密には、二つの確率変数が独立であるとは、同時確率分布が各々の確率変数の確率分布の積となるときにいいます。
また、確率変数 が確率密度関数を持ち、独立であるときは次のことが言えます。
●確率変数の和の確率分布関数
応用上、確率変数には確率密度関数が存在することが多いので、確率密度関数が存在すると仮定します(確率密度関数がないとしても、一般化された枠組みで同じことが言えます)。このとき、次のことが言えます。
確率変数の和の確率密度関数を考えると二つの確率変数の確率密度関数の合成積と言われるものがでてきました。ここで、関数 と の合成積というのは で定義されます。つまり、 の確率密度関数はこの記号を使って、
と書けます。同様に、確率変数 が独立で確率密度関数 を持つとすると、 の確率密度関数は
となります。つまり、確率変数の和の確率密度関数は各確率変数が独立ならば確率密度関数たちの合成積によって特徴付けられるのです。よって、合成積の特徴を知ることで、確率変数の和の特徴を知ることが可能です。
●関数の合成積とは
前の記事で述べたように数学とは集合の性質を写像を通して調べる学問です。このことを意識して合成積のことをもっと深く考えてみましょう。そのために、まず対象とする関数が住む空間を設定します。
関数 ] と ] の合成積とは次のように写像のことだと考えられます。
確率密度関数は で積分すると1になりますので ]に入っていると考えられます。よって、二つの独立な確率変数 が与えられたとき、片方の確率密度関数が ] に入っていれば合成積の定義は可能です。また、 合成積 が有界であることは、 からきています。このことから、] の要素と ] の要素の合成積をしても発散することはないということが保障されます。
●合成積の意味
合成積は数学的には上のように写像として定義されるのですが、具体的には次のような特徴を備えています。
実際に、資料の p117とp118にあるように次のように合成積を繰り返すことで滑らかさが上がる様子が確認できます。図の中の と は確率密度関数です。
図を見ると、独立な確率変数たち の確率密度関数の合成積で の確率分布関数はガウス分布 (正規分布) となることが予想できます。これはある仮定のもとで正しく、中心極限定理と呼ばれています。このことは確率密度関数のフーリエ変換を考えることで分かりやすくなるので、まずフーリエ変換の説明を次回したいと思います。
●参考文献
記事を書くにあたって参考にした本や資料を紹介します。
(1) 独立性のところを参考にした。
(2) 写像としての合成積のところを参考にした。
A Course in Robust Control Theory: A Convex Approach (Texts in Applied Mathematics)
- 作者: Geir E. Dullerud,Fernando Paganini
- 出版社/メーカー: Springer
- 発売日: 2000/02/02
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(3) 合成積が関数を滑らかにするというところを参考にした。とても分かりやすい。
●予告
フーリエ変換について数学とは集合の性質を写像を通して調べる学問であるということを意識して説明したいと思います。