この記事では、与えられた複素正方行列 のシュール分解を紹介します。また、応用上よく利用される実対称行列のスペクトル分解はシュール分解の特別な場合であることも説明します。
シュール分解
以下のような行列 の固有値が対角成分に並んだ上三角行列への分解をシュール分解と言います。
ただし、 は複素共役転置を表します。これの証明は以下の通りです。
証明の中でグラム・シュミットの直交化法を利用しました。グラム・シュミットの直交化法は以下の記事で解説しています。
正規行列:シュール分解によって対角化可能な行列
一般の行列 はシュール分解によって上三角行列に分解できることを上で示しましたが、 が正規行列、すなわち\begin{align} AA^{\dagger} = A^{\dagger}A \end{align}を満たすなら以下で示すようにシュール分解によって対角化できます。正規行列の例としては、複素数を成分にもつユニタリ行列、エルミート行列、反エルミート行列や実数を成分に持つ直交行列、対称行列、反対称行列があります。
証明は以下の通りです。
エルミート行列
正規行列の特別な場合であるエルミート行列に限定したときに、シュール分解がどうなるかを調べます。そのために、エルミート行列 のすべての固有値は実数だったことを思い出しましょう。実際に、 とすると、\begin{align} x^{\dagger}Ax = \lambda x^{\dagger}x \end{align} となりますが、 は非ゼロの実数で、なので左辺も実数なので、 は実数となります。したがって、エルミート行列 のシュール分解を考えると、次の結論を得ます。
すなわち、エルミート行列は固有値によって重み付けされた直交射影の和として表現されます。実数の世界での直交射影は
で説明しましたが、少し修正すると複素数に対しても成り立ちますので、 は が張る1次元部分空間への直交射影だということになります。
対称行列
エルミート行列の特別な場合である実数を成分に持つ対称行列に限定したときに、シュール分解がどうなるかを調べます。そのために、対称行列 の固有値は実数であり、固有ベクトルとして実ベクトルを常に選ぶことができることを思い出しましょう。実際に、固有値が実数であることはエルミート行列のところの議論と同じですし、固有ベクトルを実ベクトルとして選ぶことが可能なのは以下のように示せます。
したがって、対称行列 のシュール分解を考えると、次の結論を得ます。
すなわち、エルミート行列の場合と同様に、対称行列は固有値によって重み付けされた直交射影の和として表現されます。ただし、ここの直交射影は
で説明した直交射影とまったく同じです。
参考文献
記事を書くにあたって参考にした文献です。