初級Mathマニアの寝言

数学は色々なところで応用可能であり、多くの人が数学の抽象的な概念の意味や意義を鮮明に知ることができれば今まで以上に面白い物や仕組みが生まれるかもしれません。このブログは数学を専門にしない人のために抽象的な概念の意味や意義を分かりやすく説明することを目的としています。数学を使って何かしたい人のお役に立てたら幸いです。

等質空間

この記事では、等質空間の概念について説明します。等質空間なるものをなぜ紹介するかというと、また別の記事で実数を成分に持つ正定値対称行列全体の集合  {\rm Sym}_+(n, {\bf R})を幾何学的に考えたいからです。そのような集合を考えたい理由は、 {\rm Sym}_+(n, {\bf R}) 上での最適化問題が工学の問題を考えていると自然に出てくるからです。実際の問題の例はまた今度書くと思いますが、この記事では等質空間について説明します。

●群

等質空間の定義を理解するためには、群の概念を知っている必要がありますので、群の定義を確認しておきましょう。

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実数や整数は馴染みがあると思いますが、実数全体の集合や整数全体の集合は和に関して群になっています(単位元は両方とも0)。しかし、実数全体の集合は積に関して群になっていません。0の逆元が存在しないからです。同様に、整数全体の集合も積に関しては逆元が存在しないので、積に関して群になっていません。

重要な群の例に次の一般線形群があります。

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 {\rm GL}(n,{\bf R}) が通常の行列の積に関して群になっていることは次のように確かめられます。結合法則が成り立つことは、一般線形群の要素が行列であり、行列の積は結合法則を満たすことから言えます。次に、単位元の存在は、単位行列が単位元になることから言えます。最後に、逆元の存在ですが、任意の A\in {\rm GL}(n,{\bf R}) に対して \det A\neq 0 なので言えます。

  H\subset G部分群であるとは、 H G の演算によって群になることを言います。一般線形群  {\rm GL}(n,{\bf R}) の部分群の重要な例に次の直交群があります。

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●群の左剰余類への分解

群の部分群が与えられたら以下のように左剰余類というものを考えることができます。

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左剰余類の概念を使って、考えている群の上に以下のように同値関係を導入することができます。

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しがたって、同値関係  \sim による商集合を考えることができます。左剰余類を使った同値関係による商集合は次のように表されることが多いです。

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商集合という概念はこちらの記事で解説しましたので、興味があったら見てください。

 ogyahogya.hatenablog.com

 

●群の作用

群は集合の要素を変換する役目があります。つまり、 G を群、 X を集合とした時、写像  f: G\times X \rightarrow X が与えられるという形で群は登場することが多いです。この  f(g,x) を単に  g\cdot x と書くことにします ( g\in G, x\in X)。

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群の作用でも特に推移的に作用することが大事です。

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定義から、群が集合に推移的に作用していれば、集合の一つの元に群のある要素をかけることによって集合の任意の元が得られることを意味しています。

例えば、一般線形群  {\rm GL}(n,{\bf R}) は正定値対称行列全体の集合  {\rm Sym}_+(n,{\bf R}) に次のように推移的に作用します。

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したがって、 {\rm Sym}_+(n,{\bf R}) の任意の元は  {\rm Sym}_+(n,{\bf R}) の単位元である単位行列に  {\rm GL}(n,{\bf R}) のある元を作用させること得られます。

●等質空間

この記事で解説したかった等質空間は次のように定義されます。

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上で示したことから、正定値対称行列全体の集合  {\rm Sym}_+(n,{\bf R}) は等質空間ということになります。

これから集合が等質空間だったら何が言えるかを見ていきましょう。そのために、まず集合の要素を動かさない群の要素の集まりである等方部分群を定義します。

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集合  X に作用する群  G の等方部分群  G_x は名前の通り、 G の部分群になっています。よって、等方部分群  G_x によって群  G 上に同値関係を導入できて、その商集合  G/G_x を考えることができます。実は等質空間  X は商集合  G/G_x と次のように同一視できます。

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 この定理は次のように証明できます。

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この定理を使うと、以下のように正定値対称行列全体の集合という等質空間を一般線形群の直交群による商集合として考えられることが分かります。

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この事実が正定値対称行列全体の集合のリーマン幾何学を考える際に役立ちます(これについてはそのうち書くと思います。)。

●参考文献

 この記事を書く際に以下の本を参考にしました。

代数概論 (数学選書)

代数概論 (数学選書)