この記事では、行列の指数関数と対数関数について解説します。Lie群とLie環という概念を理解するための準備に相当します。
●行列の内積とノルム
をn行n列の実数を成分に持つ行列全体の集合とします。このとき、 に以下の内積とノルムを導入できます。
任意の に対して が成り立つことがコーシー・シュワルツの不等式を使うことで確認できます。
●行列の指数関数
実数 の指数関数 を の周りでテイラー展開すると でした。これと形式的に同じになるように行列の指数関数が次のように定義されます。
右辺の無限級数が収束することは以下のように分かります。
●行列の指数関数の性質
行列の指数関数の性質は以下の結果を利用して明らかにすることができます。
解であることは を左辺と右辺に代入して等しくなることを見れば良いです。一意性は、微分方程式の解の一意性定理から従います。
指数関数の性質を明らかにする前に、二つの行列が可換であるか否かを判定するカッコ積を導入しておきます。
つまり、 なら と の積は可換です。
次の結果が重要です。
これを応用して、以下の結果が得られます。
これは指数関数の値域は一般線形群 であることを意味しています。
さらに、以下の結果も成り立ちます。
これらより、 に対して、 は加法群 から への微分可能な準同型写像 を与えていることが分かります。この曲線 は実は次のように を用いて表されます。
●行列の対数関数
実数 の対数関数 を の周りでテイラー展開すると でした。これと形式的に同じになるように行列の対数関数が次のように定義されます。
上のように、一般の行列 に対しては が単位行列に近いときに対数関数 は定義できます。
次の結果は は の近傍と の近傍の間の微分同相写像であり、逆写像は で与えられることを示しています。
この対数関数を利用して、次の公式が得られます。
上の公式は と が可換でないときには指数関数 と の積にカッコ積 の影響が出てくることを表現しています。
●参考文献
記事を書くにあたって、以下の本を参考にしました。