この記事では、グラム・シュミットの直交化法とQR分解について解説します。
グラム・シュミットの直交化法
ベクトル は一次独立だとします。このとき、 は の基底となります。しかし、 は の正規直交基底ではないかもしれません。グラム・シュミットの直交化法は の任意の基底 から以下のように正規直交基底を構成する方法です。\begin{align} q_1 &:=\frac{a_1}{||a_1||}\\ q_k &:= \frac{a_k-P_{q_1,\ldots,q_{k-1}}(a_k)}{||a_k-P_{q_1,\ldots,q_{k-1}}(a_k)||}\quad (k=2,\ldots,n) \end{align}
ただし、 は 上への直交射影で、\begin{align}Q_{k-1}:= \begin{pmatrix} q_1 & q_2 & \cdots & q_{k-1} \end{pmatrix}\in {\bf R}^{n\times (k-1)}\end{align}
です。ベクトル の作り方から となるので、直交射影 は
で説明したように、\begin{align}P_{q_1,\ldots,q_{k-1}} = Q_{k-1}Q_{k-1}^T=q_1q_1^T+q_2q_2^T+\cdots+ q_{k-1}q_{k-1}^T \end{align} となります。
の場合のグラム・シュミットの直交化法は次のような感じでイメージできます。
の場合は次のような感じです。
QR分解
ベクトル は一次独立だとして、\begin{align} A:= \begin{pmatrix} a_1 & a_2 & \cdots & a_n \end{pmatrix}\in {\bf R}^{n\times n} \end{align} だとします。グラム・シュミットの直交化法により、 とすると、以下のように行列 を分解できます。
このように、行列 を直交行列 と 上三角行列 へ分解することを のQR分解と言います。QR分解の構成から、QR分解することはグラム・シュミットの直交化をすることと同値ですので、 の各列ベクトルが一次独立なら常に のQR分解を実行することができます。
注意1
でベクトル は一次独立だとします ( の場合は一次独立にならないので考えません)。 の場合は上と同じなので、 の場合の注意を書いときます。
の場合も上のグラム・シュミットの直交化法はまったく同じように実行できて、 から正規直交ベクトル を得ることができます。このとき\begin{align} A:= \begin{pmatrix} a_1 & a_2 & \cdots & a_n \end{pmatrix}\in {\bf R}^{m\times n} \end{align} は\begin{align} A=QR \end{align} というようにQR分解できます。ただし、 は の場合と同じ の上三角行列ですが、\begin{align} Q:= \begin{pmatrix} q_1 & q_2 & \cdots & q_n \end{pmatrix}\in {\bf R}^{m\times n} \end{align}は各列が正規直交しているものの、 なので直交行列とは言えません。このような各列が正規直交している行列全体の集合をシュティーフェル多様体と言い、色々な応用で出てきます。
注意2
でベクトル は一次独立だとします。注意1との違いはベクトルの成分が実数ではなく、複素数だということです。この場合もグラム・シュミットの直交化法が適用できます。ただし、ノルムの定義や直交射影に若干の変更が必要です。すなわち、 の場合のノルムは(陽に書いていませんでしたが)\begin{align} ||x||^2 = x_1^2+x_2^2+\cdots +x_m^2 \end{align} だとしていましたが、 のノルムは\begin{align} ||x||^2 = |x_1|^2+|x_2|^2+\cdots +|x_m|^2 \end{align} に変更する必要があります。また、直交射影は\begin{align} P_{q_1,\ldots,q_{k-1}} =Q_{k-1}Q_{k-1}^{\dagger} \end{align} と変更されます。ただし、 は複素共役転置を表しています。この変更のもとで、\begin{align} A:= \begin{pmatrix} a_1 & a_2 & \cdots & a_n \end{pmatrix}\in {\bf C}^{m\times n} \end{align} は\begin{align} A=QR \end{align} というようにQR分解できます。ただし、 は各列が正規直交しており、 は上三角行列です。さらに、 の場合には はユニタリ行列となります。
参考文献
この記事を書くにあたって参考にした文献です。