この記事では射影行列について解説します。
射影行列の定義と性質
行列 が射影行列であるとは、\begin{align} P^2 =P \end{align} を満たすときに言います。
ここで、 は以下の記事で紹介した直和を表しています。
が射影行列、 は明らかなので、まずは が成り立つことを示します。任意の は となるので が成り立ちますので が成り立つことを確かめたら良いです。そこで、任意の をとってみると、ある によって が成り立ちますので、 が成り立つことが分かります。また、 なので となり、 なので が成り立つことになり、 が示せました。次に、 が成り立つことを示します。任意の をとると、 なので となり、 が分かります。また、 なので が成り立つので、 が言えました。
上のことは 上の射影行列が与えられたら の直和分解が得られることを示していますが、逆に の直和分解が与えられたら射影行列が定まります。
以上のことから次のことが言えます。
直交射影行列
ユークリッド空間 には内積 が定義されているとします。射影行列 が対称行列、つまり、 のとき、 を直交射影行列と言います。行列 が直交射影行列だとすると、ユークリッド空間 は次のように と に直交直和分解されます。
行列 が直交射影行列ではなく、単なる射影行列だと にはなりますが、これが直交直和とは限らないことが \begin{align} P= \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \end{align} の上の例から分かります。
一次独立なベクトルたちが張る空間への直交射影行列は次のように表現できます。
特に、 が正規直交していると、 への直交射影行列 は なので\begin{align} P = AA^T=a_1a_1^T+a_2a_2^T+\cdots +a_ma_m^T \end{align} となり、任意の に対して、\begin{align} Px = (a_1^Tx)a_1+(a_2^Tx)a_2+\cdots +(a_m^Tx)a_m \end{align} となります。したがって、 は を各 軸へ直交射影したベクトルの和として表現されます。例えば、 の は次のように 軸と 軸へ を直交射影したベクトルの和ということになります。
行列 が直交射影行列ならば となるので以下が成り立つことが分かります。
つまり、任意のベクトル の直交射影 の大きさは の大きさ以下になります。行列 が直交射影ではなく、単なる射影行列だとこのようなことは言えません。実際に、次のような例があります。
この直交射影の概念は、以下の記事の中でも利用しているようにシステム制御理論でもよく使われます。
参考文献
記事を書くにあたって次の本を参考にしました。
UP応用数学選書10 射影行列・一般逆行列・特異値分解 新装版
- 作者: 柳井晴夫,竹内啓
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2018/09/25
- メディア: 単行本
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