この記事では、ベクトル空間の直和分解について解説します。
ベクトル空間の和と直和
ベクトル空間 の二つの部分空間 が与えられているとします。このとき、 は の部分空間でないかもしれませんが、\begin{align} V_1+V_2 := \{ x_1 + x_2\,|\, x_1\in V_1, x_2\in V_2 \} \end{align} は の部分空間になっています。この は を含む最小の部分空間になっており、 と の和と言います。基底を構成するベクトルの数をカウントすることで、\begin{align} \dim (V_1+V_2) = \dim V_1 + \dim V_2 - \dim (V_1\cap V_2) \end{align} が成り立つことが分かります。
もし、 かつ が成り立つならば、 は と の直和であると言ったり、 と に直和分解されると言ったりして、\begin{align} V= V_1\oplus V_2 \end{align} と書き、 は の補空間と言います ( は の補空間)。 であることと、 かつ が成り立つことは同値です。また、 であることと、任意の が\begin{align} x = x_1 + x_2,\quad x_1\in V_1,\, x_2\in V_2 \end{align} として一意に表せることは同値です。
不変部分空間による直和分解と行列の分解
今、 を複素数全体の集合として、 とします。ベクトル空間 が -不変部分空間であるとは、 任意の に対して が成り立つときに言います。
を -不変部分空間として は と直和分解されるとしましょう。ただし、 とします。このとき、ある可逆な行列 が存在して\begin{align} P^{-1}AP = \begin{pmatrix} A_1 & 0 \\ 0 & A_2 \end{pmatrix} \end{align} と書けます。ただし、 です。実際に、ある一次独立なベクトル を用いて と書くことができ、\begin{align} A \begin{pmatrix} p_1& p_2 & \cdots & p_n \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} p_1& p_2 & \cdots & p_n \end{pmatrix} \begin{pmatrix} A_1 & 0 \\ 0 & A_2 \end{pmatrix} \end{align} と表現できることから分かります。
逆に、\begin{align} P^{-1}AP = \begin{pmatrix} A_1 & 0 \\ 0 & A_2 \end{pmatrix} \end{align} が成り立つと、-不変部分空間 が存在して が成り立つことが分かります。
ここで説明した不変部分空間の概念は以下の記事で説明したようにシステム制御理論の中でもよく使われています。
内積空間の直交直和分解
ベクトル空間 には内積 が導入されているとします。つまり、 は内積空間とします。ベクトル空間 の部分集合 が与えられたとすると、 の内積を用いて の部分空間\begin{align} U^{\perp}:= \{ x\in V\,|\, (x,y)=0,\,\,\forall y\in U\} \end{align}が定義できます。この を の直交補空間と言います。 が の部分空間だとすると、\begin{align} V = U\oplus U^{\perp} \end{align} が成り立ちます。
内積空間の例であるユークリッド空間の直交直和分解
ユークリッド空間 には内積 が定義されているとして、ユークリッド空間 から への線形写像 が与えられているとします。つまり、 です。線形写像 が与えられているので、\begin{align} {\rm Im}\, A &:= \{ Ax\,|\, x\in {\bf R}^n\} \\ {\rm Ker}\,A &:= \{x\in {\bf R}^n\,|\, Ax=0\} \end{align} が定義できます。 を の像空間と言い、 を の核と言います。 は の部分空間であり、 は の部分空間になっています。
線形写像の像空間と核という概念を使うと、ユークリッド空間は次のように直交直和分解できます。\begin{align} {\bf R}^m &= {\rm Im}\, A \oplus ({\rm Im}\,A)^{\perp} \\ {\bf R}^n &= {\rm Ker}\, A\oplus ({\rm Ker}\,A)^{\perp} \end{align}これと\begin{align} {\rm Ker}\, A^T = ({\rm Im}\, A)^{\perp} \end{align} より、以下のような感じで考えることができます。
上のユークリッド空間の直交直和分解と\begin{align} {\rm rank}\, A:= \dim ({\rm Im}\, A) = {\rm rank}\, A^T \end{align} より、次元定理\begin{align} n = {\rm rank}\,A + \dim {\rm Ker} A \end{align} が得られます。
参考文献
記事を書くにあたって次の本を参考にしました。