前の記事で説明した線形システムの制御を考えるにあたって重要な可制御性と可観測性の概念について説明します。以下の記事
では、可制御可観測なシステム全体の集合の性質について解説しており、この記事の続編のような記事となっています。
●線形代数の復習(ケーリー・ハミルトンの定理と不変部分空間)
システムの可制御性や可観測性の性質を調べるためには線形代数の知識が少し必要です。特にケーリー・ハミルトンの定理や不変部分空間の概念を知っていると理解が深まりますので、まずはそれらから説明します。
ケーリー・ハミルトンの定理は固有多項式に関する定理です。固有多項式とは何かというと、 行列 が与えられた時に定義される のことです。が の固有値になることと が成り立つことは等価です。次の定理がケーリー・ハミルトンの定理です。
これから次のことが分かります。
不変部分空間は次の性質を満たすベクトル空間のことです。
不変部分空間についてより詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
●可制御性
線形システムの可制御性は次のように定義されます。
直感的には次の図のように、任意の点からスタートして原点に到達させることができる入力が設計できるときに可制御、そんな入力をどんなにがんばっても設計できないときに可制御でないということになります。
可制御性の定義をもう少し数学的に書くと次のようになります。
上の はベクトル空間であり、さらに 不変部分空間であることが確認できます(詳細は後で書きます)。上の定義より、もしも が状態空間の次元より小さいなら可制御でないということになります。しかし、定義より の中の任意の状態は原点へ移すことができます。つまり, 状態空間を に限定すれば可制御だと考えられるわけです。実際に、次のように元の状態空間 を可制御な状態空間と不可制御な状態空間に直和分解できます。
が 不変部分空間であることは後で証明します。
●可観測性
線形システムの可観測性は次のように定義されます。
これを数学的に書くと次のようになります。
上の はベクトル空間であり、さらに 不変部分空間であることが確認できます(詳細は後で書きます)。上の定義より、もしも が0より大きいと入出力データから初期状態 と区別できない状態が存在することになります。状態空間 は次のように可観測な状態空間と不可観測な状態空間に直和分解できます。
が 不変部分空間であることは後で証明します。
●Kalmanの正準分解形
上の議論から状態空間 は次のように分解できます。
これより線形システムは次のように分解できます。
上のように分解された形の線形システムをKalmanの正準分解形と呼びます。このように分解できることも後で証明します。
● が 不変部分空間であることの証明
これを示すには
を示せば良いです。なぜなら次のように は 不変部分空間だからです。
では、 を証明しましょう。
まず、 を示します。
次に、 を示します。これを示すために
という関係を利用します。上の は可制御性グラミアンと呼ばれています。今、次の関係が常に成り立つことに注意しましょう。
よって、
が成り立ちます。また、
が成り立ちますので、
ということも言えます。よって、
が成り立つことが分かり, も示されました。
● が 不変部分空間であることの証明
ケーリー・ハミルトンの定理より
と書けることを利用すると、
が成り立つことが分かります。可制御性の時と同様の議論で が 不変部分空間であることを証明できるので主張が成り立ちます。
●Kalmanの正準分解形の証明
次のようにベクトル空間を定義します。
定義から
となります。次のように基底と行列を定義します。
すると、 は 不変部分空間であることから
ということが成り立ちます。 に対しても同様の議論を繰り返し, 行列 , に対しても上の基底のもとでの表示を考えると次のことが成り立つことが分かります。
よって、上の行列 を用いることでKalmanの正準分解形が得られることが分かります。
●参考文献
記事を書くにあたって次の本を参考にしました。